月宗和尚
 
 月宗和尚は、江戸時代におけるわが曹洞宗屈指の禅僧でした。その高徳を讃えて「曹洞月宗」とか

 「復古月宗」と尊崇されているのです。月宗和尚は又、まれにみる能筆家で、当時流行の竹筆を用いた

 こともあって、筆勢するどく、その墨蹟は実に豪快です。月宗和尚の腕自慢にまつわるエピソードに

 こんな話が伝えられています。


 ある日、たいへん不思議なことが起こった。月宗和尚が方丈で休息していると一転にわかにかきくもり、

 今にも夕立がやってきそうな険悪の天候となった。すると天井からドスーンと、何やら大きなものが

 落ちてきたかと思うと月宗の右腕を何者かがギューッとつかんだ。

 「誰だ!」月宗は尋ねた。すると天井から声がした。

 「俺は天狗だ」
 
 「天狗? なんでわしの腕を押さえるんだ?」

 「俺は和尚の字にほれたよ。それで腕にさわらせてもらっているんだ。

 腕を取るわけではない。しばらくの間、さわらせておってくれ!」

 「そうか、心ゆくまでさわれ!」

 「これはありがたい。これで満足した」と言って天狗は飛び上がったが、その際「腕に触らせてくれた

 お礼として、和尚の揮毫のある所はこの天狗が身をもって守護するであろう」と言い残していった。

 この出来事があって以来、月宗の文字は魔よけや火防になると言い伝えられ、諸処方々の寺寺から

 山号額や寺号額の揮毫をたのまれたと言う。月宗は求めに応じて書いて与えた。

 碩水寺のものもその中の一つというわけです。